下にtRNAにおけるRNA修飾の役割をまとめた表を掲載しておきます。
この表では、遺伝子破壊株の解析や変異tRNAの生化学的な研究が行なわれた例のみをあげています。この他に、DNA修復への影響や抗酸化ストレスに対する感受性の変化など、すぐには説明のつかない表現型も多数、報告されています。
当研究室と京都大学、東京大学の共同研究でも、tRNA m7G46の修飾欠損がウリ類タンソ病菌の感染性の欠損につながることを発見しています。
また、最近、我々は好熱菌において、tRNAのm7G46が修飾ネットワークのキーファクターの一つとして働いていることを見出しました。
表 tRNA中の修飾ヌクレオシドとその役割
修飾ヌクレオシド・ポジション 生理機能・変異株の表現型
s4U8 / s4U9 紫外線影響下でのタンパク質合成の停止
Gm18 G18-Ψ55塩基対の強化、Ψ55との二重欠損株でフレームシフトエラー頻発
Cm32 アンチコドン・ループ構造の安定化、アンチコドン・コドン対合の強化
tRNAGlyのコドン認識能の拡張a
Q34 アンチコドン・コドン対合の強化、フレームシフトの防止、コレラ菌の感染に必須
k2C34 コドン認識能の改変、Ileコドン(AUA)の読みとりに必須、
Met-RSおよびIle-RSによるtRNAIleの識別、
大腸菌の場合、欠失変異は致死的
f5C34I34 コドン認識能の拡張、Argコドン(CGA)などの読みとりに必須、
大腸菌・酵母において、欠失変異は致死的
Um34 コドン認識能の制限、ゆらぎ塩基対形成の制限
mnm5U34 / mnm5s2U34 コドン認識能の制限、ゆらぎ塩基対形成の制限、フレームシフトの防止
s2U34 コドン認識能の制限、ゆらぎ塩基対形成の制限、
細胞質tRNAのミトコンドリアへの輸送の抑制
cmo5U34 / mcmo5U34 コドン認識能の拡張、ゆらぎ塩基対形成の促進
Ψ35 アンチコドン・コドン対合の強化、Tyr-RSによるtRNATyrの認識、
tRNATyrによる終止コドンのリード・スルーの抑制
t6A37 アンチコドン・コドン対合の強化、フレームシフトの防止、
Lys-RSによるtRNALysの認識、欠失変異は致死的?
ms2t6A37 アンチコドン・コドン対合の強化、フレームシフトの防止、
Lys-RSによるtRNALysの認識、
Thrコドン連続領域でのタンパク質合成速度の調節
m1G37 フレームシフトの防止、Arg-RSによるtRNAAspのミスアシル化の防止
大腸菌において欠失変異は致死的、真核生物・古細菌でyW37誘導体合成の前駆体
yW37 アンチコドン・コドン対合の強化
m2A37 Gln-RSによるtRNAGlnの認識
i6A37 / ms2i6A37 / ms2io6A37 アンチコドン・コドン対合の強化、
tRNATrpによる終止コドンのリード・スルーの抑制
tRNACysによるTrpコドンのミスリーディングの抑制
tRNAPheによるLeuコドンのミスリーディングの抑制
欠失tRNAはリボソーム上でのペプチド伸長速度が低下
Ψ38 / Ψ39 / Ψ40 tRNAGlnによるHisコドンのミスリーディングの抑制、
HisオペロンおよびIle-Valオペロンのタンパク質合成量の調節b
m7G46m5U54 G18-Ψ55塩基対の強化、大腸菌の場合、欠失変異は致死的c
m5s2U54 G18-Ψ55塩基対の強化、tRNA構造の安定化、高温環境下でのタンパク質合成の促進
Ψ55 G18-Ψ55塩基対の強化、大腸菌ではGm18との二重欠損株の成長阻害
m1A58 酵母・開始tRNAMetの安定化・半減期延長、酵母の場合、欠失変異は致死的
好熱菌の高温環境下での生育に必須
ヒトtRNALys3の修飾は、エイズウイルス(HIV)感染に必須
2’-phosphoribosyl-A64 開始tRNAMetと伸長tRNAMetのeEF-1αによる識別
a tRNAGlyの場合、未修飾のC32でもU32に比較してGlyコドンの認識能が拡張される。
b 温度感受性変異株の解析結果のため、どのtRNA分子の修飾が直接関与するのか不明である。
c この修飾ヌクレオシドの修飾酵素、tRNA (m5U54) methyltransferaseは16S rRNAとも会合し、致死性の直接的な原因はtRNA修飾の欠損ではないことがわかっている。
d 正式な略号が、まだ公認されていないトリ肉腫ウイルスのパッケージング阻害
ウリ類たんそ病菌において感染性に必須
好熱菌において高温環境下の生育に必須
遺伝子破壊株は、他のtRNA修飾の低下、特定のtRNA分解
ミトコンドリアtRNAMetによるAUAコドンの認識 (コドン認識能の拡張)
一部の古細菌におけるコドン認識能の改変、AUAコドンの読み取り、Met-RSおよびIle-RSによるtRNAIleの識別
酵母においてm5Cとの二重欠損はtRNAValを不安定化
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