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Reaction Organic Chemistry Laboratory,
Department of Appl. Chem., Ehime Univ.

研究内容research


【はじめに】
 有機化学は,医薬,農薬,液晶などの機能性材料,プラスチックを含む工業材料等々,現代社会を基盤から支える礎である。一般にあまり知られていない縁の下の力持ちなのは残念であるが,有機合成によって人工的に生み出された有機化合物は,我々の生活の隅々まで浸透し,今や有機化学なしでは現代社会が成り立たないまでになっている。
 有機化学の重要性は,体系化された幾多の反応の理解を元に,設計した化合物を有機化学反応の繰り返しによって合成できることにある。炭素を中心とする化合物のもつ多様性と相まって,他の科学技術分野では考えられない程,多種多様な物質を自分たちで産み出すことができるのが有機化学の特徴である。そうして産み出されてきた数多くの有機化合物が,たとえば文房具の中にも,携帯電話の中にも,また洗剤やシャンプー等生活用品の中にも,見える見えないに関わらず我々の生活に深く浸透し,現代社会を支えているのである。
 ただし,その有機化合物の合成もすべて完成されているわけではなく,現状で最も都合の良い方法が採用されているに過ぎない。現在ある様々な問題の解決に加え,未来を見据えた新技術の開発がまだまだ必要であることは言うまでもない。当研究室においても,そのような観点から,より良い有機化学反応を目指した様々な研究を進めている。

【研究概要】
 当研究室では,『触媒』と『リン』をキーワードとして,より効率的な合成反応,より環境にやさしい反応,より高選択的な触媒など,より良い有機化学反応を目指した研究を進めている。また,開発した反応をベースに新しい有用化合物創成への挑戦も行っている。

① 高性能触媒創成を目指した研究
 効率的な合成反応開発を目指すために,高性能な触媒を創り出すことを考え研究を行っている。対象としている遷移金属触媒は,触媒金属周りの環境が触媒の性能(反応性・選択性)に大きく影響することから,その金属周りの環境をいかに作るか,という観点から,様々なアプローチで研究を進めている。

(a) 金属錯体触媒 = 金属原子 + 配位子の組み合わせ
 オーソドックスな錯体分子触媒は,金属原子の周りを「有機リン化合物」が配位子として囲い,反応場を形成する。そこで,この「有機リン化合物」を自由に設計して合成し新たな触媒を創成することを目指した研究を行っている。
 実際には「有機リン化合物」を自由自在に合成できる方法がなかったため,有機リン化合物を合成するための様々な反応を新たに開発した。




 さらに最近では,より「自由自在」に近い超高効率カップリング反応の開発に成功した。



 現在,これらを応用した新たな触媒開発を行っている。

(b) 担持金属触媒 = 金属ナノ粒子 + 担体の組み合わせ
 上記の金属錯体触媒の多くは,溶媒に溶かした状態で反応に用いられる。このような触媒は均一系触媒とも呼ばれ,反応後の触媒の回収や再利用が困難である。一方,固体触媒(不均一系触媒)は溶媒に不溶であるため,反応後の触媒の回収と再利用が容易という利点をもつ。このような触媒としては,シリカやアルミナなどの不溶性の無機担体に金属ナノ粒子を担持した触媒(担持金属触媒)がよく研究されており,錯体触媒に比べて容易に調製でき熱安定性にも優れるため工業用触媒として広く用いられている。当研究室では主に均一系の錯体触媒を用いた反応開発を行っているが,工業的にも使える真に有用な反応を開発するには固体触媒を用いた検討も重要と考えている。
 最近,固体酸として知られるH-ゼオライトに担持したPtナノ粒子を触媒に用いることで,常圧の水素ガス雰囲気下110 ℃でフェノール類をシクロヘキサン類に変換する反応を開発した。本反応は自然に豊富に存在する木質バイオマス・リグニンから炭化水素を合成するプロセスの鍵反応の一つ反応であるが,従来法では高温高圧の過酷な反応条件(300 ℃以上,水素圧20-100気圧)が必要であった。我々の反応は非常に温和な条件下で進行し,特別な反応容器が必要ないためプロセスの低コスト化に繋がると期待している。




② 高効率触媒反応の開発
 既存の反応には,高価な貴金属触媒が必要であったり,反応効率や原子効率が悪いものが多く,まだまだ改善すべき課題は多い。例えば,アルコールのシリル化は,塩基の存在下でアルコールとクロロシランの反応により行うのが一般的であるが,クロロシランが湿気に弱いため取扱い難いことに加え,大量の塩を副生するため原子効率が悪い。そこで,アルコールとヒドロシランを用いる触媒的脱水素シリル化反応が近年注目されているが,本反応ではRhやIrなど高価な貴金属触媒が多く用いられている。一方我々は,安価な卑金属であるNiを中心金属とする含窒素ヘテロ環カルベンNi錯体が本反応の良い触媒となることを報告した。



③ 新しく開発した反応をベースに新物質・新材料の開発に挑む
 配位子のために開発した有機リン化合物自在合成法を使い,有機リンを簡単に組み込める『元素ブロック』として使った新たな材料開発に取り組んでいる。当研究室としては初の高分子への挑戦となる新しい研究課題である。


④ 全く新しい分子材料の開発
 実験には偶然の発見がつきものであるが,そんな幸運が当研究室にもたらしてくれた有機リンベースの色素材料の研究を行っている。


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化学・生命科学コース
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講師 太田 英俊
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