はじめに
有機化学は、医薬品から最先端の機能性材料まで、現代社会の 「ものづくり」 を支える学問です。その核心となる技術が、目的の化合物を自由に設計し、一から作り出す「有機合成」です。 私たちの暮らしは、この有機合成によって生み出された多種多様な化合物に支えられ、豊かになっています。 しかし、その合成方法はまだ発展途上にあり、未来の技術革新のためには、より効率的で環境に優しい化学反応が常に求められています。私たちの研究室では、まさにその鍵となる、新しい有機化学反応の創出を目指しています。
研究概要
私たちの研究室では、『触媒』と『リン』をキーワードとして、より効率的な合成反応、より環境にやさしい反応、より高選択的な触媒など、より良い有機化学反応を目指した研究を進めています。また、開発した反応を使って、新しい有用化合物を創成する挑戦も行っています。
① 有機リン化合物の新しい合成方法の開発
有機リン化合物は、医薬・農薬・機能性材料・触媒など、多くの分野で重要な役割を担っています。しかし、その合成方法は限られており、研究当初、私たちが設計した分子を合成することができませんでした。そこで、望みの構造をもつ有機リン化合物を 「自由自在」 に合成するための様々な反応を開発しています。




代表的な論文:
・Org. Lett., 2013, 15, 628-631.
・Eur. J. Org. Chem., 2018, 6, 735-738.
・Synlett, 2022, 33(15), 1511-1514.
・J. Org. Chem., 2025, 90, 824-829.
・Asian J. Org. Chem., 2025, e00361.
② 高性能触媒の開発
効率的な有機合成を目指すために、高性能な触媒の開発を行っています。私たちが開発の対象としているのは『金属触媒』です。金属の周りの環境が触媒性能(反応性・選択性)に大きく影響するため、「その環境をいかに作るか」という観点から様々なアプローチで研究を進めています。当研究室の面白いところは、多くの有機化学(有機金属化学)の研究室で行われている『金属錯体触媒』はもちろんのこと、無機化学系の研究室が得意とする『担持金属ナノ粒子触媒』や『有機保護金属ナノ粒子触媒』の開発も行っていることです。

代表的な論文:
・Chem. Commun., 2015, 51, 17000-17003.
・Chem. Eur. J., 2019, 25, 14762-14766.
・Organometallics, 2021, 40, 2678-2690.
・Asian J. Org. Chem., 2025, e00361.
③ リン原子を含んだ新しい蛍光色素の開発
私たちは、実験中に良く光る有機リン化合物を偶然見つけました。最初は極めて少量しか採れず、構造も全くわからない謎の化合物でしたが、分析により構造を決定し、反応を改良することで、今では『様々な色に光る新しい有機蛍光材料』を大量に合成できるようになりました。学術的な基礎研究から実用化を目指した応用研究まで、当研究室のメインテーマの一つとして、精力的に研究を行っています。

代表的な論文:
・J. Am. Chem. Soc., 2018, 140, 2046-2049.
・Synlett, 2023, 34(12), 1492-1496.
・Chem. Eur. J., 2024, e202304328.
・Eur. J. Org. Chem., 2025, 28, e202500256.