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RNA修飾の研究
RNA修飾の研究(tRNAにおける修飾の役割)へ
 修飾ヌクレオシドの第一義的な役割は、「タンパク質合成系を正確かつ円滑に動作させること」です。
修飾ヌクレオシドがなければ、コドンを正しく読み取ることも、読み枠を維持することもできません。
また、mRNAは細胞質に輸送されず、rRNAは正しくプロセシングされず、tRNAは誤ったアミノ酸を
結合してしまい、タンパク質合成系そのものが機能しません。
 したがって、RNA修飾は、すべての生命がもつ、もっとも根源的な現象のひとつです。

tRNAは、修飾ヌクレオシドをもっとも多く含む機能性RNAの一種です。
上図Aは、tRNAの二次構造をあらわしたもので、クローバーの葉のように見えるため、クローバー・リーフモデルと言われます。図で、各ヌクレオチドは○で表現されていますが、保存性の高いヌクレオチドについては、記号で表されています。Rはプリン、Yはピリミジン、Tはチミン(m5U)、ギリシャ文字Yはシュードウリジンです。各ヌクレオチドの横の数字は、5’-末端から何番目に位置するかを示しています。

 tRNAの第一義的な機能は、アミノ酸を結合して、タンパク質合成を行なっているリボソームにアミノ酸を供給することです。アンチコドンと呼ばれる34、35、36位の塩基で、mRNA上のコドンを読み取ります。また、CCA末端と呼ばれる3'-末端にアミノ酸を結合させます。tRNAは、原則的にタンパク質合成で使用される20種類のアミノ酸に対応した分子種が存在します。実際には、すべてのコドンに対応するため、一つのアミノ酸に対して、複数種類のtRNAが存在することも多いです。また、ミトコンドリア以外のメチオニンtRNAは、タンパク質合成開始と伸長用に別々のtRNAが存在します。
 したがって、真正細菌や古細菌、酵母の細胞質には、30種類以上のtRNAが存在しています。高等動植物のゲノム上には、数百種類のtRNA遺伝子やその類似遺伝子が存在しますが、これらがすべて転写されているかは確認されていません。また、高等動物(脊椎動物、原索動物、棘皮動物、節足動物、線形動物など)のミトコンドリアには、22種類のtRNAしかコードされていません。
 tRNAのヌクレオチド数は76が基本ですが、ヒト・ミトコンドリアのセリンtRNA (55 nt)から、大腸菌のセリンtRNA (95 nt)まで、バリエーションがあります。
 実際のtRNAは、図Bに示したように折りたたまれたL字型の構造をしています。この構造は、アンチコドンとCCA末端を空間的に適切な位置に配置し、翻訳因子やアミノアシルtRNA合成酵素、プロセシング酵素、RNA修飾酵素の認識部位を提供します。
 tRNAは、核酸上に書き込まれた遺伝暗号(コドン)をアミノ酸に対応させる唯一のアダプター分子です。これまでに、様々なtRNAから80種類以上の修飾ヌクレオシドが見つかっています。

tRNAの二次構造(クローバーリーフ構造)と三次構造(L字型構造)