O2- 生成型NADPHオキシダーゼの研究

[背景] 

 O2-スーパーオキサイドともよばれ,活性酸素の一種である。 O2-生成型 NADPH oxidase(Nox) は,1978年 に好中球(白血球の一種)に最初に見い出され,その殺菌作用において重要な働きをしていることが明らかになった(図1)。この酵素の欠損する遺伝病は慢性肉芽腫症(CGD)と呼ばれ、欠損患者は非常に感染しやすく,弱い菌にも抵抗できず多くは幼児期に死亡する。このことから本酵素は私達の健康 (生体防御) において非常に重要であることがわかる。

 このような働きに加え,O2-は体の中でほかにも色々な働きをしていることが次第に明らかになってきた(表1)。1999年には大腸にNoxのisozymeが見い出されたのを皮切りに,様々な組織に特有のNoxが発現していることが明らかになってきた。それらの酵素はシグナルに応じてO2-を発生し,それが生命の維持と健康をささえていると思われる。

  一方、O2-の産生過多や,意図せぬ活性酸素の発生がもたらす酸化ストレスが,様々な病気に結びついていることが近年指摘されている(表2)。とくに現在,社会問題になっている生活習慣病や老化と関連する疾病の多くに活性酸素が関わっていることが特徴的である。

 このようにO2-は両刃の剣のように二面性をもっているゆえ,それを生成するNADPH oxidaseは厳密に制御されなければならない。私達の体にはこの制御のための巧妙なしくみが備わっていると思われるが、そのしくみについては未だ充分わかっていない。 上述のように本酵素は健康にも病気にも関わる重要な酵素であるにもかかわらず,本酵素は非常に不安定で扱いにくく,長い間その実体すらもはっきりしなかった。1991年になってNox2の活性化因子が単離され,ようやくその実体が研究できるようになったが,その制御の仕組みは予想以上に複雑で,我々はまだ完全に理解するに至っていない。このような背景から,当研究室ではこの酵素の成り立ちと調節のしくみを解明することを目標としている。具体的には次の事を目標にしている。 

[研究目標] 

[1] Nox酵素の活性化のしくみを明らかにする

Nox本体は一種のシトクロムであるが,そのままでは不活性である。活性型になるためには複数の活性化因子タンパク質が会合して構造変化を起す必要がある。どのような因子がどのように会合することが必要なのか,我々独自の技術による酵素の(超)安定化を利用して,この点を解明する。

[2]スイッチの成り立ちと自己制御

Noxの活性化システムは非常に厳重にできており,しばしば活性化因子そのものがロックされている。これらのロックはどのようにはずされるのか,また,それらがどのように組み立てられ,Noxに構造変化をもたらすのか。分子レベルで解明したい。

[3]Nox酵素の構造を明らかにする

Noxは,膜酵素であることもあって,未だ3D構造が解かれていない。また活性化因子の3D構造は部分的に解明されただけである。さらにこれらが会合した活性複合体の構造(位置関係)は推定の域を出ない。我々はまず活性複合体の位置関係を明らかにすることから始めたい。そして最終的には複合体の3D構造を解明したい。

[4]細胞での酵素の制御を知る

スイッチon/offの指令はつねに細胞外から来る。外からの指令がどのようにしてNoxまで伝わるのか (活性化因子のunlockに結びつくのか),そのシグナリングの一部始終を解明したい。

[5]酵素を応用する

当教室では本来非常に不安定な酵素であるNoxをユニークな方法により極限まで安定化することに成功した。そして,これを用いてミクロのO2-発生デバイス(分子装置)を開発したが,今後さらに改良して簡便に使える道具として完成する。

[6] O2-は細胞に与える影響を in vitroで調べる。

活性酸素が関わるたくさんの病気がある。そこで上記のデバイスを使って,各種細胞 (神経,平滑筋,腎臓,胃,大腸その他)へのO2-の影響をin vitroで調べる。それを病態解明や診断治療の手がかりとして提供したい。 

 戻る