NADPH oxidase 国際会議

”風とともに去りぬ”の舞台へ

[プロローグ] 

  第2回NADPH oxidase 国際会NoxII議 (通称 Nox II) が去る3月27日より3月31日までアメリカはジョージア州アトランタ市郊外で開かれた。 もともとは貪食細胞で発見され,phagocyte oxidase (phox) と呼ばれていたこの酵素はO2-産生酵素であり,活性酸素による抗菌作用の働きをしていると考えられてきた。 しかし,1999年の非貪食細胞でのhomologの発見を機に, 数種のhomologが発見され,ひとつのfamily(Nox /duox family)を形成していることが明らかになった。それぞれの酵素は全身の組織器官に特有の分布を示し,それぞれの場所で特有な働きをしていることが予想される。   

  第1回 国際会議は2002年にドイツはマールブルグで行われ,2年おきの開催で,2回目の今回は,homolog 発見の立役者となったDave Lambethと,Noxの血管平滑筋細胞での機能研究で知られるKathy Griendlingの2人が主催者となり,両人の所属するエモリー大学のあるアトランタ市の近郊での開催となった。会場はアトランタ空港から南に100kmほどのPine Mountain (日本語でいうと松山)というところにあるCallaway Gardensというリゾートであった。 

  

Callaway Gardensに咲いていたユリ(?)の花

[学会の雰囲気]

  学会全体の印象は,アメリカ南部特有のゆったりした風景と雰囲気の中で,しかし内容は世界の精鋭たちがしのぎをけずる熱のこもった有意義なミーティングになったように思う。4日目の夕食は,”風とともに去りぬ”(マーガレット・ミッチェル作)の世界をしのばせるような古い屋敷で,南部料理そのもののようなバーベキューPartyとなり,本場カントリーミュージックの生演奏もあってアメリカ南部の歴史と雰囲気を充分感じさせるものとなった。

[学会の内容]

  口頭発表は以下の7つの項目 (文末参照)に分かれ,32件の発表が行われた。Mary DinauerThomas Leto, Dave Lambethらの他,日本からは今やtwo big namesとなった住本英樹(九州大・生医研)と六反一仁 (徳島大・医)およびそのグループの河原 司の発表があった。疾病との関連では,早くから注目された動脈硬化,高血圧など循環器にまつわる疾病 (Griendlingグループ,Touyzグループ)のほかに,鎌田 透(信州大・医)らによるRasを介するガン化におけるnox1の役割やBarry Goldstein(Thomas Jefferson大)らによる糖尿病との関連が目を引いた。 何日目かに,質問者用のマイクが出なくなるというハプニングがあり,熱心な質問者たちが大声をあげて演者とやり合ううち,何やらあやしい雰囲気になった。しばらくして,ようやくまともなマイクがセットされ,人々の心も平静にもどった。競争の激しい分野の白熱した議論を象徴する一幕であった。

  ポスター発表は2日に亘って行われ,51件の発表があった。日本からは,疾病との関連で勝山真人(京都府立医大),桑野由紀(六反グループ)また酵素の分子レベルからのアプローチで西本行男(愛知医大) そして田村 実(愛媛大・工)による発表があった。我々の発表はNox2の分子架橋による超安定化の研究であり,"A tightly bound phox triad keeps NADPH oxidase on" と題して行われた。その他分子レベルでの研究ではAlgirdas JesaitisやScripps研究所の大御所 Barnard Babiorグループの発表, 同じくScrippsのBecky Diebold(Bokochグループ)のRacとCdc42とのクロストークに関する研究が興味を引いた。Actinとのかかわりを発表したカナダのグループの発表も個人的には注目であった。

              

                左からWientjes, Pick夫人, 田村, そしてDiebold

[Nox homologの種類]

  Nox homologそれぞれの登場回数を数えると,Nox 1とNox 2に関する発表が最も多く,それについでNox4の順であった。発表に現れる件数は,口頭とポスターを合わせて多い順に次のようであった: Nox2 (28) > Nox1 (23) > Nox4 (20) > Nox3 (6) > Duox (3) > Nox5 (2).。これはひとつには発見の順序が影響しているが,もうひとつは臨床的な関心度の高さ(現時点での)を反映しているように思われる。Nox5は口頭発表が1題のみで,これを発表したKarl-Heinz Krauseはいみじくも,そのタイトルに「Nox5: the poor cousin of the NOX family」と付けていた。対象となる生物種としてはヒト,マウスの他に,ハエ,コウボ,植物などが扱われていた。

  機能については,nox1によるmitogenesisに関しては賛否両方の説が出されるなど,事態はなお流動的であることをうかがわせた。Nox3については下に述べる新しい機能が提唱された。Nox5についてはハエにおいて卵子形成などに重要であることが報告された。細胞内分布についても,はたして核内にnoxがあるのかどうかという点で白熱したDiscussionがあった。

[今後の動向]

  カンファランスcommitteeが選ぶ今回のYoung Investigator Awardは,内耳におけるNox3の役割などを発表したBotond Banfi(Geneva University: 現Iowa 大) (写真)に対して与えられた。ちなみに前回は新しいサブユニット p41noxを発表したMiklos Geistz (NIH) が受賞した。これらのことが象徴するようにNox研究は新しいタンパク質因子の発見から,新しい生理(病理的)機能の発見という段階に入ったことを,肌で感じさせる5日間であった。しかし,phoxの無細胞活性化の創始者であり,制御因子としてのRacの発見者でもあるEdgar Pick (Tel Aviv 大学)(写真)がしばしば質問に立って指摘したように,新機能発見の先陣争いの中にあっても,つねに酵素の基本的,生化学的性質をきちんととらえていく姿勢が,酵素の真の理解のためにも,その臨床的応用においても不可欠であることを実感させられた。 最後にそのPickがウィットに富んだclosing remarksを行い,聴衆から喝采をあびた。こうしてカンファランスは5日間の日程をすべて終了し,次回の開催地スイスでの再会を約束して閉会となった。

         

         注目度ナンバー1はBanfi             Cell-free 活性化の創始者 Pick

[エピローグ]

  全体としてよくオーガナイズされ,何よりも研究発表と討論,それに研究者同志の交流が充分にできる時間と空間が用意されていた。反面 sightseeing的な要素は乏しかったが,本来の目的が達成できることが何より大事,というオーガナイザー達の姿勢が感じられた。 会議が終わりに近付いたころ,参加者全員にアンケートが行われ,Sectionごとの発表内容や討論のレべルにいたるまで,ひとつひとつ採点するようにとのお達しがあったことには,正直驚いた。主催者側の真摯な姿勢,熱意が伝わってくる場面であった。アトランタはかつて筆者が2年間の留学生活を行った思い出の場所でもある。その日はEmory大学の実験室を訪ねた後,夜は当地にすむ旧友と再会し,乾杯したのだった。そして翌朝 のDelta 便でまさに”風とともに”この地を去ったのであった。(以上 文中敬称略)

 

(参考) 口頭発表の8つの項目

1) The Phagocyte NADPH oxidase

2) Post-translational Regulation of Nox 1-4 

3) Biology and Pathology of Nox explored through animal models 

4) Pathology of Nox in Cardiovascular Disease 

5) Biology and Pathophysiology of calcium regulated Nox/Duox 

6) Pathophysiology of Nox in cancer, Growth and Innate Immunity  

7) Nox in the Cardiovascular System and Diabetes 

8) Nox and Reactive Oxygen species signaling